みぎは【汀】
『作庭記』(一〇四〇年頃)に、
○南庭をゝく事は、階隠乃外のハしらより、池乃
汀にいたるまで六七丈、若内裏儀式ならば、八九丈にもをよぶべし。〔18行2-7〕
○そのあらいそハ、きしのほとりにはしたなくさきいでたる石どもをたてゝ、
みぎハをとこねになして、たちいでたる石、あまたおきざまへたてわたして、はなれいでたる石も、せう/\あるべし。〔104行6-41〕
○又水の中に石をたてゝ、左右へ水をわかちつれバ、その左右の
みぎハには、ほりしづめた石をあらしむべし。〔132行7-55〕
○葦手盜は、山などたかゝらずして、野筋のすゑ池の
みぎハなどに、石所々たてゝ、そのわきわきに、こざゝ、やますげやうの草うゑて、樹にハ梅柳等乃たをやかなる木をこのミうふべし。〔146行8-63〕
○池河の
みぎハの盜々をいふ事〔162行9-69〕
○鋤鋒、実形。池ならびに河の
みぎハの白濱ハ、すきさきのごとくとがり、くわがたのごとくゑりいるべきなり。〔163行9-69〕
○前にハしらはまをあらせて、山ぎハならびに
みぎハに、石をたつべし。〔175行10-74〕
○當時居所より高き地ニほり井あればバ、その井のふかさほりとをして、そこの
水ぎはより樋をふせ出しつれバ、樋よりながれいづる水たゆる事なし。〔784行33-429〕
とあって、漢字表記「汀」一例、かな表記「みきは」六例、混用表記「水きは」一例の併せて八例を記載する。意味は、『日本国語大辞典』第二版の「(水際(みぎわ)の意)陸地の、水に接する所。水のほとり。みずぎわ」、角川『古語大辞典』の「「水(み)際(きは)」の意。川・池・溝などの陸地と接する所」を云う和語表現の語である。
古辞書である三卷本『色葉字類抄』に、
汀(テイ)ミキハ/他丁反。
〓同。
渚沚同。〔黒川本卷下・美部地儀門61オA〕
とあって、「汀」「〓」「渚」「沚」の四語を以て「みきは」の訓を記載する。
さらに、図書陵本『類聚名義抄』水部に、
汀玉云勅丁反。平也。川云禾也/美伎波。水際也。―沙。〔14E〕
とあって、訓み「美伎波」、語注記に「水際也」とあって確認できる。
文献作品資料では、平安時代の『今昔物語集』〔一一二〇頃か〕に、
○然テ蜘蛛ハ其ノ蓮ノ葉ノ下ニ、蓮ノ葉ノ裏ニモ不付デ、□ ニ付テ不被螫マジキ程ニ、
水際ニ下テコソ有ケレ。〔卷第二十九・蜂、擬報蜘蛛怨語第卅七〕
○其ノ恒世ガ住ケル家傍ニ舊河有ケルガ、深キ渕ニテ有ケル所ニ、夏比恒世、其ノ旧河、ノ
汀近フ木景ノ有リケルニ、帷計ヲ着テ中結テ足駄ヲ履テ〓(木+叉)杖ト云物ヲ突テ、小童一人許ヲ共ニ具シテ、此彼冷行ケル次デニ、其ノ渕ノ傍ノ木ノ下ニ行ケリ。〔卷第二十三・相撲人海恒世、會蛇試力語第廾二〕
○葦ヤ薦ナド生タリケルヲ見テ立リケルニ、渕ノ彼方ノ岸ノ三丈許ハ去タラムト見ユルニ、水ノミナギリテ此方樣ニ来ケレバ、恒世「何ノ為ルニカ有ラム」ト思フ見ル程ニ、此方ノ
汀近ク成テ大ナル蛇ノ水ヨリ頭ヲ指出タリケレバ、恒性此レヲ見テ、「此ノ蛇ノ頭程ヲ見ルニ、大キナラムカシ。此方樣ニ上ラムズルニヤ有ラム」ト見立リケル程ニ、蛇ノ、 ヲ指出テ暫ク恒世ヲ守ケレバ、恒世「我ヲ此ノ蛇ハ何カニ思フニカ」ト思テ、汀四五尺許ヲ去テ、不動デ立テ見ケレバ、蛇暫許守リ守テ、頭ヲ水ニ引入テケリ。〔卷第二十三・相撲人海恒世、會蛇試力語第廾二〕
●其レニモ人ノ住ケル時ニ、夏比、西ノ臺ノ延ニ人ノ寝タリケルヲ、長三尺許有ル翁ノ来テ、寝タル人ノ顔ヲ捜ケレバ、恠シト思ケレドモ、怖シクテ何カニモ否不為(セ)ズシテ、虚寝ヲシテ臥タリケレバ、翁和ラ立返テ、行クヲ、星月夜ニ見遣ケレバ、池ノ
汀ニ行テ、掻消ツ樣ニ失ニケリ。〔卷第二十七・冷泉院水精、成人形被捕語第五〕
○船ニ乗タル者共此レヲ見テ恐迷テ、船ヲ漕テ忩(イソ)ギ迯ルマ丶ニ、集テ此ノ虎ニ目ヲ懸タリケルニ、虎海ニ落入テ暫許有テ游テ陸ニ上タルヲ見レバ、
汀ニ平ナル石ノ有ル上ニ登ヌ。〔卷第二十九・鎮西人、渡新羅値虎語第卅一〕
●然テ明日堂供養ニ成ヌルニ、夕サリ火ヲ数燃シテ、荷ニ車二ツニ 二ツニ積テ、牛共ニ懸テ遣リ入レテ、池ノ
汀ニ下セバ、僧都、「此ハ何コヨリ持来レルゾ」ト問ハスレバ、「大蔵ノ史生高助ガ令上ル也」ト申セバ、僧都、「何ニゾノ〓(米+斤レウ)ノ船ニカ有ラム」ト思ケルニ、兼テ造リ儲タリケレバ、其ノ舟ニ、高助、蘭ナドシテ、樣々ニ終夜物ノ具共打付テ、上ニハ錦ノ平張ヲ覆ヒ、喬ニハ帽額ノ簾ヲ懸テ、裾濃ノ几帳ノ帷ヲ重タリ。〔卷第三十一・大蔵史生宗岡高助、傅娘語第五〕
と『作庭記』にも用いられている「水際」「汀」の漢字表記例が見えている。
〈補助資料〉
小学館『日本国語大辞典』第二版に、
み‐ぎわ[:ぎは]【汀】〔名〕(水際(みぎわ)の意)陸地の、水に接する所。水のほとり。みずぎわ。*十巻本和名抄〔九三四頃〕一「
汀 唐韻云汀〈他丁反 和名美歧波〉水際平沙也」*土左日記〔九三五頃〕承平五年一月七日「行く人もとまるも袖の涙川
みぎはのみこそ濡れまさりけれ」*徒然草〔一三三一頃〕一九「汀の草に紅葉の散りとどまりて、霜いと白うおける朝」*サントスの御作業〔一五九一〕一・サントアンデレ「ソノ シガイ ミナ
miguiua(ミギワ)ニ ヨレバ」*右大臣実朝〔一九四三〕〈太宰治〉「その夜は由比浦の
汀に仮屋を設け、波の音を聞きつつ」【
発音】ミギワ〈標ア〉[0][ワ]〈ア史〉平安●●● 江戸●●○〈京ア〉[0]【
辞書】和名・色葉・名義・下学・和玉・文明・明応・天正・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【
表記】【汀】和名・色葉・名義・下学・明応・天正・饅頭・黒本・書言・ヘボン・言海【沚】色葉・名義・和玉・書言【渚】色葉・文明・易林【聲】色葉・名義【濆】名義・書言【寿】名義【膤】和玉【水際】書言
角川『古語大辞典』に、
みぎは【汀】〔名〕「水(み)際(きは)」の意。川・池・溝などの陸地と接する所。「汀
美岐波水際平沙也」〔和名抄〕「行く人もとまるも袖の涙川
みきはのみこそぬれまさりけれ」〔土左日記〕「岸の松、
汀の柳、年へにけりとおぼえて」〔平家物語・六・祇園女御〕「
みぎわにうかむさゝをぶね」〔京四条おくに歌舞妓・三〕
みぎは勝(まさ)る川や池水の水位が高くなる。涙がとめどなく流れることにいう。「君をしむ涙おちそふこの河の
みきはまさりてながるべらなり」〔貫之集・六〕「をみごろもめづらしげなきはるさめにやまゐの水もみきはまさりて」〔実方集〕「(文ヲ)ひきあくるより、いとゞ
みきはまさりぬべく、かきくらす心地し給ふ」〔源氏物語・明石〕



0