・・・。
「うぅー、寒みぃ〜・・・」
吹き付ける乾燥した冬の風は容赦なく体温を削り、そして同時に生気も削がれてゆくようである。
「よう雅。」
肩を震わせて詰所に入ると、適温に調整された空気とともに聞き覚えのある声が耳に入ってくる。
「・・・暁。」
そうだ。こいつには去年の10月ごろ、とんでもない目に合わされた・・・。
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連日工場に足を運ぶ。
本業の方は駅長に任せてある。
駅を離れてここに来るのには理由があった。
前の工場長が持病を理由に職を辞し、正式な手続きをして副駅長兼任の工場長として就任したからだ。
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調査の結果、蒼鉄から依頼を受けたC12はほとんど問題なかった。保存状態良好。稼働部のグリスアップもしっかりと行われている。
だが一つだけ問題があった。たった一つ、この機関車が抱える最大の問題。
部品の欠落。
動力を伝達するほんの小さな消耗部品。それが左右で一つづつなくなっていた。
たかだかこれだけだが、この部品がなくては絶対に走ることはできない。
調査の結果ではその他の箇所に異常は見つかっていない。となれば、原因は間違いなくここにあるだろう。
しかし、その部品もまた曰く付きだ。かれこれ数十年前に生産が終了している。
だが各地の工場の絶え間ない努力により代用できる部品があることが報告されているし、この工場でも同様に代用品を使用して出場させた車両がいくつかあった。その際に大量に購入した部品のストックがまだ残っている。
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検査項目に従った一通りの解体検査を終え、各部の消耗品は新品に交換、問題箇所の部品の取り付けも無事終えた。今は試運転のために最終検査が行われている。
大掛かりな修繕も行われずにここまでこぎ着けたのはひとえに蒼鉄の心のこもった手入れのお陰だろう。
「おいおいまた蒸気かよ!?」
考えに耽っていたところ作業員の声で顔を上げる。扉を見やればまた1両、蒸気機関車が入場してきた。しかし今度のは、デカイ。

「キューロクって…あんにゃろう…!!」今度も自分の知らないうちに仕事が入ってきている。となれば犯人は奴しかいない。手近に居ない以上電話で聞くしかないようた。
『…もしもし?』
「………おい暁、どういうことだ。」
『へ?何が!?』
「キューロク…って言えば解るか?」
『…あ、すまん。報告を忘れとった』
おい、またか…
「あのな、仕事もらってきてくれるのはありがたい。だが限度ってもんがあるだろ!? 今月だけで残業が合計30時間越えてる人だっているんだぞ!?」
規定残業時間は45時間。なかにはもうその手前にまで迫ろうとしている人もいる。残業分の代休でも賄いきれない。
下手すれば労働基準監督署からコンプライアンスがどうのこうのと頭のいたいことを言われる。それだけは避けたい。
『いやぁすまんすまん、コッチも手一杯だし、相手が急ぎだってもんだから断りきれんかった。』
急ぎ?
「勘弁してくれよ。こっちは暁メンテックの下請けじゃないんだから。」
条件付きながら提携を結んではいるものの、勝手なことをされては困る。
というか本来は暁メンテックが中央工の下請けだったはずだが?
暁メンテックとこの工場が親密なのには理由がある。元々車両整備の工場として存在するココと、下請け業者だった暁メンテック。独立していた双方をひとつに取りまとめたのは駅長のアイデアだった。
工場部門をひとつの企業として独立させ、全般検査や修繕を担う工場として暁メンテックが間借りする形で一部が分工場扱いとなった。(規模は本社の茨木工場より大きいのだが)
不況の合理化により休車が発生し仕事がない時期でも安定した外注を取って来てくれたのは単に暁メンテックの手柄といっても過言ではない。
双方の協力体制がとれている今では、消耗品や資材の発注と外からの受注・業務を暁メンテックに委託し、その対価として条件付きながら工場の設備と人員を自由に使う権限が与えられている。
「で、納期は?」
『二週間以内や』
ハッ、上等
『特記事項、期限以内に納車するため細部の省略可』
「オーライ。このツケは後でたっぷり払ってもらうからな。」
『ぉ、おう…』
どうやら規定残業時間オーバーはやむを得ないようだ。

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