60歳からの知恵と体験の交流誌「さすが&されど」。シニアが主役の投稿誌です。http://www.hongopub.com/

2010/5/27

〈特集@街を歩けば〉  シニア


〈特集@街を歩けば〉
 バス停30分間の人間模様/北村とも子

 友人の家に用事があり、出かける前にバス停の時刻表を見る。バスは伊勢崎駅前より発着、1番から10番が、東西南北の路線に分かれ市内を巡回する市営の無料バスで、老人や学生が多く、町村合併で郊外の農村から利用する人も多い。
 私は北回り6番で駅前で降り、南回り5番に乗り換える。5番が来るまで30分待たねばならない。ベンチに座っているとティッシュを配っている人が、私の膝の上に置いて行った。太い字で〈新宿まで1000円、ご利用下さい〉。安いと思ってみると、横に小さな字で「中高生割引」と書いてある。全国的に知られている若者の街・原宿、地方の若者を誘い込むバス会社の抜け目のない商戦だ。10名ほどの女子学生が、ワイワイ、行こう、とシャベリあっていた。
 旧国定村を回って2番のバスが入って来た。老いた男女が降り、女子学生が乗り込み5分ほどして発車した。空いたベンチの私の隣りに、2番から降りたおばあさんが座った。
 しばらくして、お連れの男の人がタバコを吸いながら、おばあさんの横に座り、怒っていた。
 「人を馬鹿にして!」
 「どうしたん?」
 「便所に行ったら、男のトイレは向こうだと言われ、わしは女だと怒鳴ってやった」
 私はびっくりした。黒づくめの服装、黒い帽子、ゴム長靴、どう見ても男に見える。
 「だから、街へ出る時は派手な服を着てこいと言ったろうに」
 「ババァが赤かえ服なんか着れっかよ」
 赤城山麓の村で田畑を耕し、着飾ることなく人生を送ってきたのだろう。
 「天気が良いのに、どうして長靴なの?」聞くと、
 「広瀬川にシジミ採りに行くんさ」
 そこへ、広瀬川方面に行く7番が来た。
 「たくさん採ってね」
 「あいよ」
 2人はバスに乗り、私に手を振って行った。
 空いたベンチに、老いた男性2人が座った。
 「ヒロさんの具合はどうだい?」
 「もう駄目かも知れない。俺も疲れたよ。寝たきりの介護4年だからな」
 「仕方ないよ。若い頃、さんざんヒロさんを泣かしたんだからな、償いだよ」
 言われた男性はうなだれていた。この年代の男性は、浮気は男の甲斐性と言って、妻を思い遣ることはなかった。
 妻は忍従の一生を終えようとしている。余命少ない病床で、見舞いに来た友人の前で、夫の顔を涙を流して叩いたと言う。
 聞いて胸が熱くなった。夫婦という枷から逃れられなかった昔の女性を思うと、現代は解放され、自分中心に考える人が多くなったと思う。その気持ちも分かるけど、人を愛せなくなった女性も不幸だと思う。
 春寒く我が身の罪に泣く日かな
 作家の佐藤愛子さんの俳句だが、父が放蕩で家族を省みず、老いて子供に泣かされる姿を見て作った俳句だ。思い出していたら、南回り5番バスが来た。街に出ると、30分待つ間に、いろいろな人間模様が見える。友人の家の隣は公園で、桜が満開だった。居ながらにお花見が出来て楽しかったが、人生の暗さを聞いたりで、複雑な一日だった。 
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