「どうですかな、PANDAの様子は?」
詰所の一角にある休憩エリア…といっても仕切りで別けられているだけの場所でソファーに腰掛け缶コーヒーを片手に休憩していると、すっかり耳に馴染んだ声が話し掛けてくる。
「さあ?、今日は現場を見に行ってないんでね。」
受け答えは適当になってしまうが、事実だから仕方ない。
「部品も届いたことだし、作業も早くなるんやない?」
そう言いながら自分の隣に腰を下ろす。
「そうも言ってられませんよ、ここからが正念場でしょ。」
本音と冗談が入り交じる暁さんとの会話は進む。
たしか今日はボイラーの水圧試験があったはずた。蒸気の代わりに内部を水で満たし水圧をかけ、異常がないか検査するのだ。
「雅さーん、工場から内線でーす。」
詰所にいた一人が受話器を片手に呼んできた。
「あいよ、ちょっと待ってー」
立ち上がって受話器を受けとる。
「はい雅です。はい…はい…、ダメ!? うん、どこ? うん…うん…、タンクも?…………はぁー………わかりました、工程、見直してみましょう。はい、お願いします…。」
全身の力が抜けていくのがわかる。そして先ほどまで腰掛けていたソファーにへたりこんだ。
「…ダメやって?」
電話の内容を察して気遣わしげに聞いてくる。
「ボイラー関係の配管から水漏れ多数。おまけにタンクもダメだってさ…」
「ボイラーって、この間戻ってきたばっかりなのに!?」
「外して保管しといた部品さ。ボイラー自体は問題ないよ。」
先日ボイラーがレストアに出された際、一部のパーツは取り外され工場で保管されていた。それが今回組み立てられ、欠陥が見つかったのだ。
「水タンクは予想外だったな…」
返却される前は水漏れなど報告されていなかった。にもかかわらず今回水漏れとは…?
イライラは次第に蓄積され、ついに沸点に達した。
スッと立ち上がり残っていたコーヒーをグイッと飲み干すと、暁さんに向き直る。
「我慢ならん、現場行こう。」
突然のことに呆気に取られていた暁さんだが、ぉ、おぅ… と返事をしてついてくる。
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「参ったなぁ、こりゃ…」
工場から戻ってきてもなお肩の力が抜けない。
これで完全に予定していた試運転の日を変更せざるを得なくなってしまった。
「これじゃ福遠さんに申し訳が立たないな…。」
昨日はPANDAに対し、もうすぐだからなどと言っておきながらこの様だ。
言い訳など聞いてもらえないだろう。自分から引き受けておきながら、やっぱりできませんでした、なんてことは許されないのだ。
「………一つ一つ、直すしかないな…。」
まだ希望は完全に途絶えたわけではない。いくらでもやり直しが利くのだ。
そう考えると、不良箇所を洗い出し、新しい修繕予定を立て始めた。

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